名古屋大学大学院 環境学研究科のエントランスリニューアルにおいて採用された竹材。
その素材を提供いただいたのが、株式会社豊竹様です。

名古屋大学 環境学研究科 エントランスリニューアル事例

名古屋大学大学院 環境学研究科にて実施された、エントランスリニューアル。本事例では、その背景と過程をご紹介します。 環境学研究科のエントランスとしてふさわしい空間へ 名古屋大学大学院 環境学研究科のエントランスでは、古い地震計の移設により新たなスペースが生まれました。この場所を、ホール利用後のコミュニケーションの場として活用するため、カウンター設置のご相談をいただいたことが今回のリニューアル計画のはじまりです。 求められたのは、 といった、具体的な使い方に応じた条件でした。加えて、この施設が環境学を扱う場であることから、環境に配慮した素材選定を考慮し案を検討していきました。 循環する素材としての可能性をもつ「竹」 検討を進める中で着目したのが、竹材です。間伐竹の活用という社会課題に対し、アップサイクル素材としての可能性を持つ竹。その循環する素材としての可能性に、竹による造作が決定しました。 環境負荷の低減 炭素ストックとしての価値 地域資源の有効活用 これらの観点からも素材として期待されました。 素材を提供された豊竹様のコラムはこちら↓↓ リニューアルのポイントと実施体制 本件では、単なるリニューアルではなく、素材の背景や意味が空間として伝わることも意識して構想を行いました。 計画のポイント ・竹材を活用したカウンター/棚/床の一体的な設え・既存床のアンカー跡を解消するための床かさ上げ・イベント利用と日常利用を切り替えられる構成・環境学の研究内容と親和性のある素材選定 体制 ・設計・デザイン:丸天産業・素材提供:豊竹(竹合板)様・製作:遠藤照明様・製作協力:河合木工様 また、谷川環境学研究科長、恒川施設・環境計画推進室長、堀田環境学研究科広報委員長(当時)にもご意見をいただきながら、内容の整理と調整を進めました。 ■Before → After Before:置かれていた古い地震計 After 未活用となっていたスペースを、交流と活用を促すエントランスへとリニューアルしました。 完成までの工程 進行スケジュール 進行イメージです ・7〜8月 :相談開始・8月   :提案書提出・12月   :竹材採用決定・12月   :素材確認・1月   :サンプル提出・見積・2月   :仕様・デザイン調整・2月   :棚施工開始・2月   :カウンター・床発注・3月末  :完成 素材の検証も 本リニューアルでは、竹材を実際に空間へ取り入れるにあたり、段階的な検証を行いながら進めました。 ミニチュアによる棚形状の確認 天板厚みの調整(60mm → 40mm) 角Rサイズの比較検証 塗装方法の検討(最終的にクリア塗装を採用) 床材としての加工可否の検証 竹材は硬く加工難易度が高いため、素材特性を踏まえた設計へと調整を重ねていきました。 ミニチュアサンプル 塗装方法、どのような造作にできるのか検討 結果、クリア塗装を採用 設えの調整 当初の計画から、利用シーンに応じて調整・変更していきました。 ハイチェアでも使いやすい高さ設定 棚とカウンター天板高さの関係調整 空間全体のバランスの最適化 その結果、実際の使われ方に沿った設えへと整っていきました。 完成ー環境配慮と研究への広がりー 本リニューアルでは、使用した竹材の重量を測定し、CO₂排出抑制の考え方への活用・炭素ストックにもつながっています。また、素材の製造・加工プロセスも含め、研究テーマとしての広がりを持つ内容となりました。 谷川寛樹研究科長へのインタビューはこちら↓↓ おわりに 本事例は、 環境配慮素材の活用 素材背景を踏まえた空間づくり 利用シーンに応じた設え を実現したエントランスリニューアルです。丸天産業では今後も、素材や背景まで含めた「意味のある空間づくり」を大切にしながら、取り組みを続けてまいります。

エントランスリニューアル、その先にあるもの― 名古屋大学大学院環境学研究科谷川寛樹研究科長インタビュー ―

このたび、名古屋大学大学院 環境学研究科のエントランスホールがリニューアルされました。納入事例についてはこちら↓↓ 今回のリニューアルは、単に空間を新しく整えるだけではなく、環境学研究科ならではの考え方を形にする取り組みでもあります。 都市環境学専攻(工学)・社会環境学専攻(人文社会科学)・地球環境科学専攻(理学)という3つの領域が集まる環境学研究科。その特徴を活かしながら、研究者同士や学生が自然に交わり、対話や新たな発想が生まれる場を目指しました。その背景にある想いや考え方について、ご紹介します。 きっかけは、エントランスに生まれた“余白” 名古屋大学大学院 環境学研究科のエントランスには、かつて古い地震計が置かれていました。 日本に入ってきた初期の地震計で、もともとは減災連携研究センターとも関わりのある展示でしたが、施設の移転などもあり、次第に説明できる人がいなくなっていきました。手入れも難しくなり、パネルも十分ではなく、置かれている意味が伝わりにくくなっていたことから、もとの持ち主でもあった博物館へ返納されることになったそうです。そうして空いたのが、今回リニューアルされたエントランスのスペースです。環境学研究科では、この“余白”を活用し新たな広がり・つながりの場にしたいと考えました。その背景には、環境学研究科ならではの構造があります。 新しいつながりや視点が生まれる場所へ 環境学研究科は文理融合型の研究科 環境学研究科は、都市環境学専攻(工学)・社会環境学専攻(人文社会科学)・地球環境科学専攻(理学)という3つの専攻と2つの研究センター、それを横断的につなぐ具体的な理念である「持続性学」と「安全・安心学」によって構成されている、国際的にもユニークな研究科です。ただ、実際には同じ研究科にいても、お互いの名前は知っていてもどんな研究をしているかまでは意外と知らない。教育の面では交わりがあっても、研究の面での融合は難しい。そんな一面もありました。 研究をいきなり融合させるのは難しくても、まずは出会い、会話が生まれること。そこから、新しいつながりや視点が生まれるかもしれない。エントランスリニューアルは、そうしたもどかしさを解消し“混ざるきっかけ”をつくる場所としての価値を求められました。 目指したのは“自然に交わる日常”です。 教員同士が、少し立ち止まって話せる場所に 月に一度の教授会の前後に、少し立ち寄って話せる。コーヒーを片手に、気軽に会話ができる。ときにはビールサーバーを囲んで、少しくだけた空気の中で交流できる。 研究の話をしようと構えなくても、まずは集まれること、同じ場にいられること。 そうした日常的な接点が、異領域の教員同士だけでなく、教員と職員の間にも新しい関係を生み出していく。そんな場になることを期待されています。 つまり今回のリニューアルは、単なる改装ではなく、研究科の中に「交わるための余白」をつくることでもあったのです。 では、この“交わる場”をどのように形にしていったのか。その設計の軸となったのが、谷川研究科長(以下、谷川先生)の研究視点でした。 研究視点とは? エントランスリニューアルを語るうえで欠かせないのが、谷川寛樹研究科長の研究の「視点」です。関心があるのは、町や都市、建物にどんな素材が使われ、そしてそれが社会の中でどう循環しているのか、という環境循環です。たとえば建物一つをつくるにも、柱や壁や床といった目に見える部分だけでなく、その素材をつくる前段階があります。鉄なら、鉄鉱石を掘るところから始まります。コンクリートなら、石灰石を採るところから始まります。 建物は完成した姿だけを見れば単体の物体に見えますが、その背景では、それをはるかに上回る量の自然資源が動いているのです。さらに建物は、いつか壊され、その先でまた別の資源循環へ入っていきます。先生は、そうした 「建てる前」から「壊した後」までを含めて環境を捉える視点 を大切にされています。目の前にあるものだけを見て判断するのではなく、その上流と下流まで見る。環境を考えるとは、そういうことでもあるのだと感じさせられました。 この“環境を上流から下流まで捉える視点”が、空間づくりにおける素材選定にもつながっていきます。 “環境学研究科らしさ”とつながった「竹材」 そんな先生の視点の中で、今回のリニューアル素材として竹材が選ばれました。 きっかけの一つは、愛知県の環境審議会やサーキュラーエコノミーに関わる取り組みです。県からのご紹介をきっかけに、放置竹林の整備と竹の利活用を進めている株式会社豊竹様とつながりが生まれ、工場も見学されたそうです。株式会社豊竹様についてはこちら↓↓ 竹材に決定したのは、単に自然素材だからではありません。放置竹林という地域課題があり、それを資源循環の中で活かそうとしている、そうした背景まで含めて、今回の空間にふさわしい素材だと考えられました。 つまり、竹を使うこと自体が目的だったのではなく、環境を多面的に考える研究科の姿勢と、今回の資源循環の中で活きる竹材がつながったということです。 ここで重要になるのは、“何を使うか”だけではなく、“どう使い続けるか”という視点です。 「長く使い続けられる」という本当の意味 先生のお話の中で印象的だったのは、「長く使えるものはいいものだ」という考え方です。環境配慮というと、新しい技術や新しい素材に目が向きがちです。けれど、どんなに良い素材でも、短い期間で役目を終えてしまえば、環境への価値は限定的になります。 竹も、成長の過程で炭素を吸収し、その後、家具や建材として長く使われることで、炭素を固定し続けることにつながります。だからこそキーワードになるのは、長寿命化なのです。 建物も、家具も、インフラも、修理しながら長く使えることに価値がある。昔の建物や道具には、直しながら使う前提がありました。現代のものづくりにおいても、そうした視点をどう取り戻していくか。先生の話からは、環境を考えることは「新しいものを選ぶこと」だけではなく、どう長く使うかを考えることでもあるという視点が伝わってきました。 そして、その考え方は“空間の役割”にも広がっていきます。 この場所そのものが、研究科を伝える場になる 今回のエントランスは、ただ人が集まるだけの場所ではありません。 新設された棚には、研究科の取り組みや、他の研究科と連携した内容、愛知県の資源循環に関わる展示などを並べていく構想があるそうです。実際に手に取れるものを置いたり、QRコードを通じて情報を見られるようにしたり。 左側には季節や企画に応じた展示、奥には研究科の取り組み紹介、入口側には愛知県の環境局と連携した資源循環に関する展示。そんなふうに、エントランス自体が環境学研究科の考え方や活動を“見える化する場所”として機能していく予定です。 場所の名前は「GSES The Inter-Brew」に決定! 場所ならではの意味を込めて、この場所をGSES The Inter-Brewと名付けたそうです。 この名の通り、人が集まるだけでなく、研究科の特徴や広がりが自然と伝わっていく。そんな場所になることを期待されています。 名古屋大学 環境学研究科のエントランスリニューアルにおいて、納入事例はこちら ここまでご紹介した考え方について、実際にどのような意図でリニューアルされたのかを、谷川先生ご本人に伺いました。 谷川寛樹研究科長インタビュー 今回のリニューアルを牽引した環境学研究科教授谷川先生にお話しを伺いました。 谷川先生 おわりに 空間は完成して終わりではなく、使われながら価値が育っていきます。今回のエントランスリニューアルは、空いたスペースを整えるためだけのものではなく、都市環境学専攻(工学)・社会環境学専攻(人文社会科学)・地球環境科学専攻(理学)という3つの領域が交わる環境学研究科の特徴を、場として形にしていく取り組みでした。 異なる分野の人が少し立ち止まり、話し、知り、つながっていく。その積み重ねが、やがて新しい発想や研究の広がりにつながっていくかもしれません。 また、今回の素材選定や展示の考え方には、環境を上流から下流まで捉え、長く使うことまで含めて考える、先生の視点も息づいています。この場所がこれからどのように使われ、どんな会話や出会いを生んでいくのか。その時間もまた、このリニューアルの大切な一部になっていきそうです。 これからも丸天産業は、空間そのものだけでなく、そこに込められた想いや背景にも丁寧に向き合いながら、人と人が交わり、新たな価値が生まれる場づくりを支えてまいります。

この事例は、単に「竹を使った」という話ではありません。
背景にあるのは、放置竹林という地域課題を、もう一度“資源”として捉え直す取り組みです。
本コラムでは、今回の空間づくりにもつながった、株式会社豊竹様(以下、豊竹)の取り組みをご紹介します。

株式会社豊竹様

株式会社豊竹様は、「竹集成材」「竹バイオ材」「豊竹チップ」の製造・販売・施工を手掛けています。
今回のエントランスリニューアルにあたり、竹材の素材提供をしてくださいました。
同社は、竹林所有者、伐採事業者、そして地域課題の解決に関わる人々が、それぞれに価値を感じられる循環型の事業モデルを構築し、その取り組みは、竹資源を活かした社会課題解決の先進的な事例として評価され、2026年には愛知環境賞「優秀賞」を受賞しています。

厄介者を価値に変える、という発想

豊竹の取り組みは、放置竹林という社会課題から始まっています。
竹は成長が早く、管理されないまま広がることで、里山への侵入や景観悪化、害獣被害、不法投棄、さらには地すべりなどの災害リスクにもつながるとされています。
こうした中で、豊竹が掲げているのが、

“厄介者を地元のヒーローに”

という考え方です。
処分に困る竹を、ただ廃棄するのではなく、地域の中で活かせる資源として再生する。
その発想こそが、豊竹のものづくりの原点になっています。

竹材に注目した理由

竹は、日本に多く存在する資源でありながら、十分に活用しきれていない素材でもあります。
一方で、竹には、成長が早く、再生可能で、地域に存在しているという特性があります。
環境視点で見ても、大きな可能性を秘めた素材です。
豊竹では、この竹を単なる自然素材としてではなく、地域の循環をつくる資源として捉えています。

  • 竹を伐る。
  • 集める。
  • 分ける。
  • 使える形にする。

そして、建材や家具、舗装材、土壌改良材などとして、再び地域や暮らしの中へ戻していく。
その一連の流れによって、竹は“処分するもの”から“活かすもの”へと変わっていきます。

豊竹の特徴
竹を、できる限り使い切る

豊竹の大きな特徴は、竹を“そのまま使う”のではなく、部位ごとの特徴を活かしながら、できる限り無駄なく活用していることです。

  • 幹は、建材や集成材へ。
  • 枝葉は、飼料や肥料へ。
  • 枯れた竹は、コンポスト基材へ。
  • 腐った竹は、土壌改良材へ。

竹の状態や部位に合わせて用途を見出すことで、竹を資源として循環させる仕組みがつくられています。
さらに、竹チップ、竹フローリング、竹集成材、竹チップ舗装、竹ソイルなど、用途に応じた商品開発も進められています。
竹の幹だけではなく、枝葉や枯竹、腐った竹まで活かす。
そこには、竹を“素材”として見るだけではなく、地域資源として使い切ろうとする姿勢があります。

使われてこそ意味がある

豊竹の取り組みの中で印象的なのは、

「困りごとを解決する商品であること」

という視点です。
環境にやさしい素材であることは大切です。しかし、それだけでは継続的には使われません。
防草、雑草対策、景観向上、舗装、土壌改良。実際の現場にある困りごとを解決できるからこそ、素材として選ばれていきます。
たとえば、竹チップを活用した防草材は、緑地の雑草対策として使われています。草刈りの負担軽減や景観向上につながり、追いチップを行うことで効果を継続させることもできます。つまり、

ビジネスでならなければならない

単なるエコ素材ではなく、現場で使える素材として成立していることが重要。

なのです。
また、竹チップは舗装材としても活用されています。自然由来の素材を使いながら、歩道や庭、公園などに使える舗装材として展開され、使用後は土壌改良材として活かすこともできます。
「環境に良いから使う」のではなく、「使う人の困りごとを解決しながら、結果として地域課題の解決にもつながる」。その実用性が、豊竹の取り組みを支えています。

大切にしているのは、地域とつながり続けること

もう1つ、豊竹が大切にしているのは、地域とつながりながら、この取り組みを継続していくことです。
放置竹林の整備は、一度行えば終わりではありません。手を入れ続けなければ、山のバランスはまた変わっていきます。だからこそ、竹を活用する仕組みを、ビジネスとして成立させることが重要になります。

  • 山をきれいにすること。
  • 地域の困りごとを解決すること。
  • 使う人に喜んでもらうこと。
  • そして、事業として続けていくこと。

そのすべてがつながることで、竹は「厄介者」から「地域の大切な資源」へと変わっていきます。

リニューアルについて豊竹様インタビュー

放置竹林という地域課題から生まれた竹材が、今回、大学のエントランス空間に使われました。
そのことを、素材を提供された豊竹様はどのように受け止められたのか。
今回のリニューアルを通じて感じられたことを伺いました。

今回のリニューアルで、印象に残っていることはありますか。

ー今回のように、空間全体の中で竹材が大きく使われたことは、印象深い出来事でした。
これまでにも竹材はさまざまな形で活用されてきましたが、竹の存在感が感じられる空間になり嬉しいです。多くの方に見ていただける場所で、竹という素材に触れてもらえること。 そして、その背景にある放置竹林や資源循環の取り組みにも関心を持ってもらえること。今回の事例は、竹の可能性を知ってもらう良い機会にもなりました。

この事例に関わり良かったことはありますか

ー今回良かったのは、竹材が空間に使われただけでなく、竹林整備の現場や資源循環の考え方まで含めて関心を持っていただけたことです。特に長尾先生などは現場まで来て収集や調査をされるなど普段は山で竹に向き合う現場と、環境を研究する大学の場が、「竹」をきっかけにつながったことにも大きな意味を感じています。竹は、建材として使うだけでなく、炭素固定やカーボンクレジット、整備前後の変化の可視化など、環境を考える入口にもなります。
今回の事例を通じて、素材の背景にある地域や山のことまで考えるきっかけになればと思います。

おわりに

竹は、もともと「扱いにくいもの」とされてきた素材です。しかし、その見方を変えることで、地域資源としての価値を持つ存在へと変わります。
今回の名古屋大学大学院 環境学研究科のエントランスリニューアルは、そうした竹の価値が、実際の空間として形になった事例でもありました。
竹を使うこと自体が目的だったのではありません。
地域課題を資源として捉え直し、空間の価値へとつなげること。
そこに、今回の素材選定の意味があります。
これからも丸天産業は、素材そのものの機能だけでなく、その背景にある地域や人の想いにも目を向けながら、価値ある空間づくりへとつなげてまいります。