2026年9月26日、オフィスづくりや働く環境の提案を通じて、さまざまな「はたらく」を考えてきた丸天産業は、新規事業として名古屋・栄「KODOMOTO」をオープンしました。
「子どもと一緒に働く」としたら、働く空間はどう変わると思いますか?
仕事に集中したい。でも、子どもの様子は感じていたい。
子どもにも自由に過ごしてほしい。でも、周囲への配慮も必要。
そんな課題に向き合ったのが、「子どもと働く」を前提とした空間づくりです。
今回はKODOMOTOの事業内容ではなく、「子どもと働く」という新しい過ごし方を、どのようにレイアウトやデザインへ落とし込んでいったのか。
設計に携わった建築士やデザイナーの声も交えながら、その空間づくりをご紹介します。
目次
KODOMOTOとは?
KODOMOTOは、子どもと近い距離で過ごしながら、親が働き・学び・人とつながることのできる親子向けコワーキングスペースです。

目指しているのは、子どもを「預ける」ことを前提とするのではなく、近くに感じながら、働くことを諦めない場所。 施設にはイベントフロアやコワーキングスペース、貸会議室、シェアオフィス、屋上テラスなど、さまざまな過ごし方ができる空間があります。
その中でも今回注目するのが、親子が一緒に過ごすことを想定した1~3階です。
一般的なオフィスとは少し違う、KODOMOTOならではの空間づくりをご紹介します。
「一緒にいる」と「集中する」を、どう両立する?
KODOMOTOの空間づくりで大きなテーマとなったのが、親と子の距離感です。
ずっと隣にいれば安心できる。
でも、それでは仕事に集中しづらいかもしれません。
反対に、壁で完全に分けてしまえば仕事はしやすくても、「子どもと近くで過ごしながら働く」というKODOMOTOらしさが失われてしまいます。
そこで考えたのが、親と子の空間をただ「分ける」のではなく、ゆるやかにつなぐという考え方です。
KODOMOTOでは名古屋市立大学 太幡研究室と連携し、親子が近くにいながら、それぞれが活動できる空間のあり方について検討を重ねてきました。
そのひとつが、親と子の空間の間に設けた「インターフェイス」です。
見える。
聞こえる。
なんとなく気配を感じる。
でも、それぞれの時間も過ごせる。
子どもの存在を感じられる安心感と、親が仕事や学びに集中できる環境。
この両立を目指して、レイアウトを考えていきました。
ここからは、設計・デザインを担当した株式会社フルブルームアーキテクトの一級建築士・小川さんと、図面化や施工調整を担当した丸天産業の一級建築士・鈴木さんに、空間づくりの裏側を伺いました。


Q.一般的なオフィスと比べて、KODOMOTOの設計で難しかったことは?
小川さん:
一般的なオフィスでは仕事をするための機能性を中心に考えますが、KODOMOTOでは子育てに必要な機能も欠かせません。
靴を脱ぐ、授乳する、使ったものを洗う、荷物を置く。家庭では当たり前のことを、仕事に集中できる環境とどう両立させるか。さらに、不特定多数の親子が利用し、子どもが自由に動き回ることも想定する必要があります。これまでのオフィス内に託児所を設けるような、完全に分離された空間とも異なります。
働く場所と子どもの居場所をゆるやかにつなぐ。 そこが今回の新しい挑戦でした。
Q.インターフェイスのデザインには、どんな意図があるのでしょうか?
小川さん:
親と子の場所をなんとなく分けながらも、お互いの姿が見えたり、声が聞こえたりする。完全に分離しないところが特徴です。今回のデザインでは、その機能に加えて、空間に動きを生み出すことも意識しました。細長く単調になりやすい空間に、彫刻やアートのような存在を取り入れることで、視覚的な面白さを加えています。
1F|親子で「参加する」を考えたイベントフロア
1階は、セミナーや研修、講習会、展示会、ワークショップ、交流会などに対応するイベントフロアです。
ここで考えたのが、「子どもと一緒にイベントへ参加する」という状況でした。
イベント中、子どもが泣いてしまったり、少し落ち着いて過ごしたくなったりすることもあります。
そこでイベントエリアの隣に設けたのが、親子で過ごせるリラックスエリアを設けました。
両エリアの間には、上部開口や窓を設けたインターフェイスを配置。完全にイベントから離れてしまうのではなく、イベントの声や雰囲気を感じながら、子どもと過ごせるよう考えています。
「参加する」か「退出する」か。の二択ではなく、子どもの様子に合わせながら、その場にいられる。
そんな選択肢を空間からつくりました。

2F|幼い子どもと「一緒に働く」を考えたコワーキング
2階は、小さな子どもと一緒に利用することを想定したコワーキングフロア。
KODOMOTOの考え方が特に表れている空間です。
コワークエリアと子どもエリアを隣接させ、その間にはインターフェイスを配置しました。さらに、キッチンや可動式の円形テーブルなどを取り入れ、育児の実用性と、働く場所としての使いやすさを両立しています。



Q.2階で特にこだわったポイントは?
小川さん:
靴を脱いで、木のフローリングを裸足で歩けるような、気持ちのよい空間を目指しました。
ただ、すべてをフローリングにすると、ベビーカーで訪れる人や、ふらっと立ち寄って仕事をする人には使いづらくなります。そこで、フロアの約3分の1を土足で利用できる土間スペースにしました。
靴を脱いでくつろぐ場所と、気軽に仕事ができる場所。 その両方を大切にしています。
3F|子どもの成長とともに、「一緒にいる」の形も変わる
2階と3階は、同じコワーキングでも考え方が異なります。幼い子どもであれば、親のすぐ近くで過ごすことが安心につながります。でも、子どもが成長すれば、親との距離感も少しずつ変わっていきます。
そこで3階は、成長した子どもと一緒にいられるコワーキングとして計画しました。
イメージしたのは、図書館のような落ち着いた空間。
親が仕事をしている隣で、子どもが本を読んだり、勉強したりする。それぞれが自分のことをしながら、同じ場所で過ごす。そんな親子の姿を想定しています。
また、既存の壁面収納やOAフロアを活用するなど、もともとあるものを活かしながら空間をアップデートしているのも特徴です。

Q.3階では、既存のOAフロアを活かしながら木材を取り入れていますが、どんな工夫があったのでしょうか?
鈴木さん:
既存のOAフロアの機能を残しながら木材を使うのは、初めての試みでした。
デザイン担当の小川さんと、木材施工担当の西垣林業さんと話し合い、既存のタイルカーペットと同じサイズの木製パネルを製作。既存のタイルカーペットは木製パネル側に貼り付けることで、クッション材として再利用しています。
床の高さや強度も検討しながら、既存の機能を活かしつつ、木のぬくもりを感じられる空間を実現しました。

空間をつなぐ、もうひとつの存在。「木」
1~3階を見ていくと、もうひとつ共通しているものがあります。
それが、木です。
KODOMOTOでは、床材や造作材などに「あいち認証材」を採用しています。
1階では床材に、2階では床だけでなく壁付けロッカーなどにも木材を取り入れ、親子が日常の中で木のぬくもりや質感に触れられるよう計画しました。
木は、単に空間をナチュラルな雰囲気にするためだけのものではありません。
子どもが触れる。
親子がその上で過ごす。
そして、働く場所にも木のぬくもりがある。
そんなKODOMOTOの空間づくりを支える、大切な要素のひとつです。
なぜ県産材を選んだのか。
その背景や木材選定、西垣林業様との取り組みについては、別の記事で詳しくご紹介します。
図面を、実際の空間にするまで。
KODOMOTOでは、名古屋市立大学との共同研究から生まれたインターフェイスをはじめ、これまでにない空間づくりに挑戦しました。
その実現を支えたのが、設計図への落とし込みや、さまざまな施工会社との調整です。
Q.今回のプロジェクトで、特に難しかったことは何ですか?
鈴木さん:
工事そのものに特別難しいものがあったわけではありませんが、今回は複数の施工会社や専門業者が関わっていたため、全体の調整が大変でした。特にインターフェイスは前例のないものだったので、名古屋市立大学からいただいた図面をもとに、どう実際の形にしていくかを検討しました。
見る位置によって視線の抜け方が変わったり、姿は見えなくても声は聞こえたり。そんな独特の仕組みを、実際の空間として形にできたことはよかったと思います。

設計者に聞く。「ここを見てほしい」KODOMOTOの空間
最後に、設計者の小川さんに、KODOMOTOで特に感じてほしいことを聞いてみました。
Q.設計者として、特に見てほしいところはどこですか?
小川さん:
ぜひ感じてほしいのは、木のぬくもりや香り、光のあたたかさです。
空間全体を白を基調としたデザインにしているのも、木の存在を際立たせるためです。
実際に訪れて、「こんな木の使い方もあるんだ」と発見してもらえると嬉しいですね。そして、これからこの空間を利用する親子には、とにかく使い倒してほしいと思っています。

「子どもと働く」に、ひとつの正解をつくらない
「子どもと働く」という新しい働き方に、決まったレイアウトの正解はありません。
誰が使うのか。
そこで、どう過ごすのか。
どんな関係が生まれてほしいのか。
そこから考え、一つひとつ空間へ落とし込んでいく。KODOMOTOは、丸天産業がこれまで考えてきた「はたらく」を、親子という新しい視点から考えた空間づくりのひとつです。
そして、空間は完成したら終わりではありません。
これから実際に親子が利用する中で、どんな過ごし方が生まれ、空間がどう育っていくのか。私たちも、その変化を楽しみにしています。